1. はじめに
国際取引における源泉徴収の要否は、租税条約や外国法令の解釈が必要となるため、その判断は、より複雑で困難になるケースが多いです。
今回は、非居住者から国内の不動産を購入した場合の源泉徴収の取扱いと、売主の非居住者該当性について買主(源泉徴収義務者)の注意義務につき争われた事案についてご紹介いたします。
2. 源泉徴収の取扱い
非居住者については、国内源泉所得のみが所得税の課税対象となります。
非居住者から日本国内にある土地等を購入した場合は非居住者の国内源泉所得に該当し、その譲渡対価を国内で支払う者(法人、個人)は、非居住者等に対して対価を支払う際10.21%の源泉徴収をしなければなりません(所法161条1項5号、212条1項)。
ただし、個人が自己またはその親族の居住の用に供するために土地等を購入した場合であって、かつ、その土地等の譲渡対価が1億円以下である場合には、その個人は源泉徴収をする必要はありません。
3. 事案の概要
建設業等を営む株式会社である原告XはA所有の不動産を購入し、Aへ譲渡対価を支払ったが、支払いの際に源泉徴収を行わなかった。その後Xに対する税務調査で、所轄税務署長は、売主Aが非居住者に該当することから、Xは所得税法212条1項、同法213条1項2号による源泉徴収義務があったのにもかかわらず、これを行わなかったとして源泉徴収に係る納税告知処分および不納付加算税賦課決定処分を行った。Xはこの処分を不服とし、取消しを求めた。
4. 争点(東京地裁平成23年3月4日判決)
非居住者から国内の不動産の譲渡を受けた者が源泉徴収義務を負う源泉徴収制度は、憲法29条1項、3項、13条に違反するか否かである(源泉徴収制度の合憲性)。
5. 判旨
本判決では、非居住者から国内の不動産の譲渡を受けた者が源泉徴収義務を負うとする源泉徴収制度は憲法に違反しないことを述べ、原告の主張に対して以下のような判断をした。
・ 売主の非居住者性の判断を買主が行う負担は憲法違反に該当するほど酷なものではない
・ 非居住者性の判断の困難性を考慮した源泉徴収制度の限定解釈は必要ない
・ 不納付加算税を課さない「正当な理由」に該当しない
6. おわりに
実務においては、非居住者該当性の判断に際し、厳密な調査確認を行うことが困難となるケースも大いに考えられます。しかしながら、このように判断が困難である場合であっても買主が源泉徴収を看過してしまった場合には注意義務を怠ったとされ源泉徴収義務を課される可能性があることに注意が必要です。
参考文献
・ 租税判例百選(第6版)別冊ジュリスト「国際課税における源泉徴収の意義」
・ 国税庁タックスアンサーNo.2879 非居住者等から土地等を購入したとき(アクセス日2020年7月27日)
・ 国税庁タックスアンサーNo.2879 非居住者等から土地等を購入したとき(アクセス日2020年7月27日)
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