1.はじめに
記念すべき第1回目のテーマは、「外国人の所得税確定申告」(英語版:Individual Tax Returns for Non-Permanent Residents)です。
近年、日本の会社でも、日本人のみならず、多くの外国人社員の方が働いているのを見うけます。日本人社員の方ですと、通常、給与所得のみであれば、年末調整をして終了で、確定申告は不要です。
それでは、外国人社員はどうなのでしょうか?
基本的に、日本の居住者は、日本人同様に年末調整を行って終了になります。しかしながら外国人従業員の場合日本国内及び海外の双方から給与の支払いを受ける場合があり、この場合には海外払いの給与からは日本の所得税が源泉徴収されない為に確定申告が必要になります。今回はこうした方で、特に給与所得のみの方の確定申告についてご説明したいと思います。
(なお、給与所得の他に国内で事業を営んでいる方や、国内に不動産がありその貸付による所得がある方も確定申告の必要があります。しかしながら、これは日本人社員も同様ですので、今回は割愛させていただきます。)
2.確定申告とは?
国税庁発行の「平成26年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」によれば、「所得税の確定申告とは毎年1月1日から12月31日までの1年間の間に生じた全ての所得の金額とそれに対する所得税及び復興特別所得税の額を計算し、申告期限までに確定申告書を提出して、源泉徴収された税金や予定納税で収めた税金などとの過不足を精算する手続きです。」とあります。
上記の説明からも分かるように、1年間の所得をどうやって把握するかが重要になります。
3.課税所得の範囲
では、外国人社員の場合、どの部分が所得税の課税対象になるのでしょうか?
それをまとめたのが以下の表です。
この表をみて分かる通り、居住形態、つまり「非永住者」、「永住者」、「非居住者」で異なってきます。それぞれの定義は以下の通りです。
① 非永住者
居住者(日本国内に住所を有しているか、又は現在まで引き続いて1年以上国内
に居所を有する個人)のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以
内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人
を言います。
② 永住者
非永住者以外の居住者。
③ 非居住者
居住者以外の個人をいいます。
言い換えれば、国内に住所・居所を全く有しないもの、又は国内に住所を有せず、かつ、居所を有している期間1年未満の個人をいうことになります。
なお、ここで言う「住所」と「居所」ですが、「住所」とは、生活の本拠のことをいい、生活の本拠かどうかは客観的事実によって判定します。実際は「住民基本台帳法」上の住所=その者の住民票のある場所を指します。一方、「居所」とは、人が相当期間継続して居住しているものの、その場所とその人の結びつきが住所ほど密接でないもの、すなわち、そこが人の生活の本拠であるというまでは至らない場所をいいます。居所とは文字通り「居るところ」であり、ホテル住まいであれば、そこが居所となります。
4.勤務等が国内外にわたる場合の国内源泉所得の計算
外国人社員の中で、本国内と外国の両方で勤務されている方の国内源泉所得は以下の算式で計算します。
国内源泉所得=給与総額×国内において行った勤務期間÷給与総額の計算基礎となった期間
なお、この計算には注意点が2つあります。
① その外国人の方が役員の場合、日本法人の役員として受け取る報酬には適用されま
せん。
② 日本国内において長期期間勤務する外国人社員が、休暇のために帰国している(こ
れを「ホームリーブ」といいます。)期間は、国内外で行った勤務と直接関連を有
していないので、その期間を分母(「給与総額の計算基礎となった期間」)から除
きます。つまり、1年を通して非永住者だった者がその年内においてホームリーブ
が15日間だった場合は、分母は350日(365日-15日)になります。
5.これも給与所得になります
転勤辞令で日本法人に務める外国人社員の方に対し、以下に掲げる本来ならば社員本人が負担すべきものを、会社が負担しているケースがございます。これらは、給与所得となります。
① 社員本人の税金の補てん
② ご自宅の水道光熱費
③ 借り上げ社宅の無償供与
④ レンタル家具の無償供与
⑤ 社会保険料の本人負担分
⑥ 子弟の教育費(例:アメリカンスクールの学費)
なお、上記③の借上社宅の無償供与ですが、全額給与所得ではなく、原則、従業員の場合は家賃総額の5~10%、役員の場合は(家賃総額の)35%か50%だけが給与になります。
6.所得控除
確定申告には、医療費控除や扶養控除といった様々な所得控除が設けられています。外国人でも居住者(永住者、非永住者)であれば、日本人社員と同じく税額控除が受けられます。ただし、下記の注意点がございます。
① 生命保険料控除
海外の生命保険会社に対し支払った生命保険料は控除できません。
② 医療費控除
国内のみならず国外で支払った医療費についても医療費控除の対象になります。
③ 社会保険料控除
基本的に外国に支払った社会保険料は控除できませんが、
租税条約に基づき一定の外国の社会保険料は控除できます。
④ 扶養控除
国外にお住まいの控除対象扶養親族も対象になります。
(ただし、「生活費」の送金の事実を要します。)
なお、平成28年度の確定申告から、生活費の送金の事実を証明できる書類及び親族であることを証明できる書類の添付が義務付けられる予定です。
7.おわりに
今回は、外国人社員の中でも、特に多いと思われます非永住者を中心に述べさせていただきました。
解説は概略的な内容を紹介する目的で作成されたものですので、専門家としてのアドバイスは含まれておりません。個別に専門家からのアドバイスを受けることなく、本情報を基に判断し行動されることのないよう、ご不明な点等ございましたら、お気軽に弊社までご相談下さい。
(参考文献)
● 国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/)
● 財務省ホームページ「平成27年税制改正の大綱(平成27年1月14日閣議決定)」
(http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/)
●「所得税 確定申告の手引(平成27年3月申告用)」
(福田あづさ編/税務研究会出版局)
● “2014 INCOME TAX AND SPECIAL INCOME TAX FOR RECONSTRUCTION
GUIDE FOR ALIENS” published by National Tax Agency JAPAN
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